球界最年長・工藤公康 年棒大幅ダウンも折れぬ魂
(2008年12月 9日 19:30)
約60分間の話し合いの後、記者会見場の席に着いた工藤投手。球団事務所に到着した時から、終始穏やかな表情を見せていた。
来年、46歳を迎える横浜の工藤公康が契約更改を行った。
減額制限を超える55%の減の5000万円(推定)で一発サインした。今年の工藤は左肘の手術もあり、また故障続きで満足のいくシーズンとは程遠いものだった。ほとんどが横浜ではなく、二軍の横須賀の陽差しで顔を真っ黒にしていたわけである。
かつて、常勝西武ライオンズのエースとして活躍し、2年連続で日本シリーズMVP、FAで福岡ダイエー、巨人と移籍の先々で優勝に貢献してきた工藤だが、過去の栄光と実績は年棒には無関係であり、厳しい現実を突きつけられた恰好となった。
だが、すでに工藤は大幅減俸を覚悟し、来季に向けて始動していた。巨人時代に一度あったきり、20代半ば以降は御無沙汰だった秋季練習で若手といっしょに沖縄で汗を流した。
「まずはキャンプまではケガをしない体を作ること。肘のこともあるので不安を取り除くために、今でも毎日、朝と寝る前に腕立て伏せは欠かしません。20回を9セットで180回、つまり、180球投げるという計算です」
この時期、概してベテラン選手は体が多少緩みがちだが、横須賀で走り込んできただけあって体は締まっている。
「いつでも野球をできる体であることはプロとしての務めです」
今年、46歳でプレーすれば楽天・野村監督、中日・落合監督の現役最終年齢を超える。
「いつまでやるのか」という雑音も聞こえてくるが、それに対し工藤は、
「『もうだめかもしれない』と思ったら、それでお終いです」
実際、まだその域には落ち込んでいないようで、30歳の頃、毎日腹筋を2000回やっていたそうだが、今でもできるという。
「今何をすべきか、なぜその練習が必要なのか、ただ走ればいいというものではなく、どういう意識をもって練習をやるかなんです」
確かな理論に裏付けられたトレーニングで、常に準備を怠らないのがプロ。シーズン後のこの日も練習後に球団事務所にやってきた。
工藤の28年目のシーズンはすでに始まっている。
年棒5000万円といえども、その数字とは反比例するかのように今年断トツのリーグ最下位に終ってしまったチームの建て直しに、工藤の左腕と頭脳は欠かせない。
工藤がずっと言い続けてきた言葉がある。
「一日でも長く、一球でも多く投げ続けたい」と。
そして、その先にはメジャーもしっかり見据えている。
契約更改後、記者会見を終えて帰り際には、
「俺に引退なんて似合わないでしょ?自分から辞めるなんて考えられない。俺はいらないって言われるまでやるよ。いらないって言われたら、じゃあ、さよなら!次行ってきます!ってね。 」
工藤の折れぬ魂にプロを見た。
(終)
WRITER
- 黒井克行(アスリートバンク編集長)
- 1958年北海道旭川市生まれ。早稲田大学を卒業後、出版社勤務を経て、ノンフィクション作家として独立。著書に『テンカウント』(幻冬舎文庫)、『高橋尚子夢はきっとかなう』(学習研究社)、『高橋尚子勝利への疾走』(講談社α文庫)、『工藤公康プロフェッショナルの矜持』(新潮社)、『男の引き際』(新潮新書)などがある。日本大学法学部講師も務める。
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