前回の2号で<緊急特別レポート!>として好評を博した "世界最速男"の直撃談を再構成しました。
(2008年11月12日 18:31)
北京五輪後、スイス・チューリッヒで行われたサイン会。陸上3冠のスーパースターは引っ張りだこだ。
気さくな男
10月25日、私はラスベガスで世界最速の男と会食をする機会を得た。もちろん、その男はウサイン・ボルト。しかももう一人。北京五輪でボルトが衝撃の「9.69」を出すまで「世界最速」の看板を掲げていた同じジャマイカのアサファ・パウエルも一緒だった。
二人とも実にフランクで楽しいひとときを過ごさせてもらった。
ただ、北京五輪であまりの衝撃を世界に発信したことで、彼らはゆったりとした"オリンピック休暇"を取り上げられ、世界中のメディアに駆り出されることになった。そのせいか、陸上に話題になるとナーバスになり、「お前は記者か?」と警戒感を剥き出しにしてきた。陸上のコーチも務めることを知ると、" 同じ仲間"と迎え入れてくれたように思う。
特に、ボルトの驕ったところが微塵もなく、気さくな人柄には好感を持った。
五輪後、二人とも走ることをしばらく封印し続けてきたためか、この時も短パンにTシャツ姿で実にリラックスしていた。ただ、話が陸上の話に及ぶと熱くなる。ランナーとしての本能が黙っていないのだろう。興味深かったのは、あれだけの世界記録を出していながら日本のように鬼気迫るようなトレーニングを踏んでいないことだった。
重要なのはリラックス
「練習はゆっくりしたペースで無理をせずがモットー」だというのだ。そこのところを同席したパウエルのコーチ、フランシスがこう解説してくれた。
「練習でハードに追い込むこともあるが、あまり好まない。たとえ彼らが追い込んだ練習をしていても、外から見ていたらそうは映らないだろう。むしろ普通の練習に受け取られるかもしれない。
逆に、『凄い練習をしているなあ!』と思われる時は、実際はそうでもないんだ」
一体どういうことなのか?
「つまり、重要なことはリラックスすることなんだ。力んで走っていれば、ランナーの必死の形相に、『追い込んでる』って見えるだろう。でも、それはあくまでも見た目の話だ。体全体がリラックスしていれば、追い込んだ練習をしていてもそうは見られないんだ。
だから、北京五輪の100mでボルトが最後ゴール前で手を抜いたように言われていたけど、そうじゃない。まず、彼はまだ100mを完全に走りきるだけの方法を知らないんだ。だから、70m付近で体がバラけ出してしまった。でも、専門の200mでは走法がわかっているからゴール寸前まで押し進めることができたんだ」
要するに、世界記録はいかにリラックスして走りきれるかどうかの結果だという。
WRITER
- 岡本英司(国際陸連代理人)
- 1957年9月24日大阪府生まれ。米ワイオミング大学を卒業後、コロラドで理学療法士となる。コロラド大学陸上部コーチを務める一方、91年から世界陸上のレギュラー解説者となり、96年には陸上競技のマネージメント会社を設立。日本人初の国際陸連代理人となる。ルーマニア陸連のアドバイザー兼同国のマラソン選手育成もする。現在、米カリフォルニア州デービスで、世界で一つしかないスタイルのフィットネスジムを経営する傍ら、UCDAVISDで陸上の跳躍コーチ。また、中東カタールのコーチのコーディネートも務める。
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