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「悪の帝国」ヤンキースが'09年に本領発揮か?

アスリートバンク サイト管理者 (2009年1月14日 11:01)

「悪の帝国」ヤンキースが'09年に本領発揮か?4億数千万ドルの大型補強を指揮したキャッシュマンGMとジラルディ監督。これで優勝を逃せば監督のクビが飛ぶことは確かだ。

大型補強

世界的な大不況の最中に、ニューヨーク・ヤンキースは無人の広野を行く大補強を展開して米スポーツファンをアッと言わせている。

まず今オフの目玉と言われた豪球左腕CC・サバシアに、7年1億6100万ドルもの大金をつぎ込んで強奪。続いて才能ではメジャー最高級の快腕AJ・バーネットに5年8250万ドルを提示して、こちらも首尾よく獲得してみせた。さらに強打の一塁手マーク・テシェイラには、宿敵レッドソックスの上を行く8年1億8000万ドルの金額をちらつかせ首を縦に振らせた。

スタインブレナー一家&ブライアン・キャッシュマンGMの号令一下、ヤンキースがこの「ビッグスリー」に費やした金額は合計4億2300万ドル。

他の多くのチームが緊縮財政を展開してるのを尻目に、常軌を逸した戦力強化戦略に思える。昨今の米プロスポーツには戦力均衡化を促す意見や制約が多い中で、これほどのタレント一極集中は異例のことと言って良いだろう。

「ヤンキースが行なっている補強策を見る限り、他のチームが彼らに太刀打ちできるかどうか私には疑わしい。率直に言って、MLBにも各チーム間のサラリーキャップが必要なように思える」

低予算チームの1つであるミルウォーキー・ブリュワーズのオーナー、マークアッタナシオ氏のコメントである。これ以外にも、札束でスターの顔をひっぱたいてチーム作りを進めるヤンキースへの批判の声は数多い。

「アンフェアで腹が立つ。優勝を金で買おうとする無様な風潮に歯止めはかからないものか」(ロイ・ファイヤーストーン氏 フリーランス・スポーツジャーナリスト)
「リーグの戦力バランスを考えずに大補強を進めるヤンキースは、アメリカの暗部を象徴している」(フィル・シェリダン氏 「フィラデルフィア・インクワイヤラー」紙)
このように、新ヤンキースタジアム開場を前に、蘇った「悪の帝国」に対する風当たりは米国内では強くなる一方なのである。

だが個人的な意見を言えば、今オフにヤンキースが成し遂げた大補強はそこまで横暴だとは思っていないし、嫌悪感もまったくない。筆者はニューヨーク在住ながらアンチ・ヤンキースであるが、しかし今回の世間のバッシングは随分と不条理なように思えてしまう。

ヤンキース"ドクトリン"

そもそもヤンキースが戦力補強に莫大なカネを費やすのは今に始まったことではない。しかも昨季いっぱいで退団する高額選手が多かったため(ジェイソン・ジアンビ、マイク・ムシーナ、ボビー・アブレイユなど)、今オフにはもともとペイロールに8850万ドルもの空きが出来ていた。

そこで浮いた金を上手に使ってサバシア、バーネット、テシェイラを獲得したというだけの話。そして彼ら3人を加えたあとでも、今季ペイロールは昨季のそれ(約2億ドル)に届きそうもない。つまり際限なく大盤振る舞いしたように見えて、実はヤンキースは昨季よりも経費削減しているのだ。

もちろんそれでも現在のペイロールが他を圧していることは事実だし、他チームが暗黙の上で足並みを合わせている緊縮財政の方向性に、独り背を向けるような姿勢は確かに無遠慮に見える。

しかしそれにしても、普段は誇らしげに自由競争を唱うアメリカで、他人のカネの使い方にクチを挟む方がおかしな話ではないか。正しい企業戦略と営業努力の末に、あるビジネスマンが巨万の富を築いた。その人物が稼いだ金を使って新たに豪華スタジアムを完成させ、華やかなスタープレーヤーをかき集めて、いったい何が悪いというのだろう?

さらに言えば、ヤンキースの唯我独尊の動きは他チームにとっても決して悪いばかりではないはずなのである。

まず現在のMLBでは、巨額ペイロールのチームに課される贅沢税が低予算チームに流れていく「利益分配システム」が確立されているのも見落とせない。ヤンキースが支払う税金を、他チームは球団運営に使うことができるのだ。

そしてそういった現ナマの収入以外に、「ESPN.COM」のバスター・オルニー記者はある低予算チーム幹部のこんなコメントを紹介している。

「ヤンキースは人々の興味をMLBに引き寄せてくれる。誰かが外国ででも新聞を読んで、ヤンキースが大金を叩いて大物を獲得したと知れば、このスポーツに興味を持ってくれるかもしれない。それは業界にとって良いことなんだよ」

特に2009年のヤンキースは、今シーズンに向けて米国内での立場、役回りをすでに完全に確立させた。

まず彼らが「ワールドシリーズ出場を義務づけられたスター軍団」であることに変わりはない。それと同時に、今オフにマーケットの趨勢を無視して3人の大物を相次いで補強したことで、これまで以上にアンチファンを惹き付けることにもなったのだ。

「悪の帝国」ヤンキースが'09年に本領発揮か?今季から生まれ変わるニューヤンキースタジアム。大盤振る舞いの舞台は整いつつある。

パブリック・エネミーNO・1

今シーズン、ヤンキースはリーグを通じた「パブリック・エネミーNO、1(公共の敵)」となることだろう。近年はレッドソックス、カブスら人気チームの台頭でやや目立たなかった「悪の帝国」が、改めて「地元以外のすべてのチーム&ファンにとって共通の倒すべき敵」の座を確固たるものとしたのだ。

アウェーではどの球場でも大観衆を集め、その中で選手たちは「金の亡者」と大きな罵声を浴び続けるに違いない。サバシアやテシェイラには莫大なプレッシャーがのしかかり、もし負けが込めばすぐに「金でかき集められた負け犬」と罵倒されるはず。そしてこの異常な期待感の中で万が一出遅れるようなことがあれば、ジョー・ジラルディ監督のクビはあっさり飛ぶだろう。

すべての補強策のあとで、筆者はそれでもヤンキースがダントツの本命とは考えていない。長年の懸案であるスピードの欠如は変わっていないし、守備強化も名手テシェイラを一塁に加えただけでは充分と言えない。過去数年はマリアーノ・リベラ頼みだったブルペンの補強もなされていない。

スタメンのうち7人は30歳代のベテランで、デレック・ジーター、ホルヘ・ポサダ、松井秀喜、ジョニー・デーモンらはいつ激しい衰えをみせても不思議はない。キャッシュマンGMのシーズン中に必要箇所を埋める能力は心許ないし、ジラルディ監督のメディアとのケンカ癖も気になるところだ。

もちろんツボにはまった場合、'09年版ヤンキースは圧倒的な強さでワールドシリーズまで突っ走るかもしれない。一方で悪い方に転べば、よりバランスのとれた陣容を誇るレイズ、レッドソックスに遅れを取り、2年連続でプレーオフを逸する可能性すら少なくないように思える。

1つだけ確かなことは・・・・・・ヤンキースの大補強のおかげで、今季のペナントレースはより興味深いものになったということだ。

依然として欠点の見え隠れする「悪の帝国」が、絶対必勝の重圧の下で、他球団からの包囲網突破を目論む。こんな魅力的なシナリオはないではないか。

ダース・ベイダーのいない「スター・ウォーズ」は想像できないし、ジョーカーが登場しない「バットマン」は退屈だった。ヒールが巨大で強力な方がアクション映画は面白い。それがショウビジネスの通例なのだ。

金満・ヤンキースは、「アメリカ社会の暗部」などではない。全米が一丸となって倒すべき偉大な強敵として、むしろなくてはならない存在である。来シーズン、この絶対の悪役を中心とした波乱のストーリーは、多くのスポーツファンを惹き付け、業界を少なからず潤してくれるに違いないのだ。

(終) 

WRITER

杉浦大介
1975年生、東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシング・マガジン』『スポーツナビ』『日本経済新聞』など、多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。

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