スポーツ余話「オシムの言葉力」
(2009年1月14日 10:13)
この大きな瞳で見つめられながら語られたら、誰もが引き込まれてしまう。
<オシム顕在>
インタビューを終えた後、別れ際に握手をした。その手は、思ったよりも柔らかでぬくもりを感じた。野球選手のように硬くない。サッカーはほとんど手を使わないから当たり前なのだろうが、190センチはあろうかという巨体だけに、意外な感じがした。
先日、サッカー日本代表前監督のイビチャ・オシム氏(67)に会う機会があった。一昨年の秋に脳梗塞(こうそく)で倒れて日本代表監督の座を退き、その後はリハビリを重ねている。じっくり話を聞くチャンスがない中で、久しぶりにオシム節を堪能させてもらった。
ミネラルウォーターを口にしながら、ゆっくりとした口調で日本サッカー界への提言や持論、欧州サッカー界との比較や人生訓にまで話が及んだ。どの言葉にも力があり、オシム氏らしい言い回しで理路整然と答えていく。ウイットに富む、という表現がぴったりと当てはまる。戦火の国で過ごし、激動の人生を歩んできたんだろう。「指揮官」と呼ばれる人には数多く接してきたが、オシム氏のような、人生の機微を強く感じさせる人物に接した記憶はあまりない。国や文化、時代の違いと言ってしまえばそれまでだが、世代を超えて共感する部分は少なくないだろう。ジェフ市原(現在は千葉)や日本代表時代からの教え子が、いまだにオシム氏への敬意を失わないわけが、こちらにも伝わってきた。
<オシムの「なぜ?」>
彼のどこに魅力があるのか。
あの大きな瞳で相手を見つめながら語るスタイルは、こちらを圧倒させるものがある。質問の意図を即座にくみとって、訥々(とつとつ)と語っていく。オシム氏の魅力を実感した約2時間だった。
もちろん、話の中身もおもしろい。
Jリーグ監督時代からそうであったように、取材者の質問に対して、逆に、「なぜ」を次々と浴びせてくる。
―なぜ日本のサッカー関係者は(昨年12月に日本で開催された)クラブ・ワールドカップに出場していたマンチェスター・ユナイテッドのような世界トップクラスのクラブから、何かを学ぼうとしないのか。
―彼らがどんな練習をしているのか知りたくないのか。
―世界最高のGKファンデルサールのプレーを見て、どう思うのか。なぜ最高のGKなのか。
―トップスターのFWクリスティアーノ・ロナウドは誰によって、どうやって発掘され、、磨かれ、開花したのか。彼の凄さをどう思うか。
こんな具合だ。
インタビューというよりも、サッカー談義のような展開になっていく。そして、どの言葉も、日本サッカーを強化するには何を学び、どう吸収すべきか。そのために、何ができるのかと問い掛けてくる。私も考えているのだから、メディアの皆さんも一緒になって考えてあげて下さい、といった流れになっていく。
いつしかオシム氏のペースに巻き込まれて、時折出てくる含蓄のある例え話に、メディア側は感心してしまう。「オシムの話はやっぱりおもしろい」と。
<オシムの奇跡>
半世紀以上に及ぶサッカー人生で得た経験談を、まるで教則本にしたかのように語りかけてくる。口調は冷静だが、徐々に熱を帯びて、延々と...。
「クリスティアーノ・ロナウドをスーパーマンであるかのような記事を書いているうちは、日本のマスコミもまだまだです。大事なことは、客観的に見て、彼の、どの点が優れているかを分析してあげて下さい」。声を荒げることもなく、訥々(とつとつ)と、こちら側に語りかけてくるのだ。あの大きな瞳で見つめながら。
人生の中でやり残したことはほとんどない、と言う。それでもサッカーへの情熱は衰えないのだろう。不自由になった体を完全に戻すことで「奇跡」を起こしてみたいとも言った。「奇跡」は起こそうとする人にしか起こせない。だから日本サッカー界がW杯で活躍することも、あり得ない話ではないという言葉にも、説得力があった。
「また話を聞かせてください」とお願いすると、おどけた表情をつくり、あの柔かな手で握りかえしてきた。「(再来日の)チケットを送ってくれるんですか」。最後まで、ユーモアにあふれていた。
(終)
WRITER
- 田誠
- 大阪府出身。岡山大学出身、45歳。日刊スポーツでプロ野球、大リーグ、五輪、サッカー日本代表などを担当。森西武、長嶋巨人、岡田マリノス、ジーコジャパン、イチローのデビューを取材。今年は五輪開催地の北京にも足を運んだ。
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