アメリカ軍大学「ペンか剣か、それともスポーツか」
(2009年1月14日 10:11)
湾岸戦争に出兵中の兵士たち。戦場を離れると、アメリカの魂でもあるフットボールで英気を養う。
<スポーツ推薦という罠>
アメリカには、4つの軍組織があります。
Army 、Navy 、Air force 、Marin。
この中で、Army 、Navy, Air force の3カ所がスポーツに大きく力を入れています。それらの大学は、普通に受験して入学するには大変な狭き門で、よほどの成績優秀者でないと入学が許可されません。競争率20倍とも30倍とも言われます。軍の士官を養成するための、超エリート校であり、今後のアメリカの軍を操作できる軍人教育をするからです。また、それらのエリートとは別に、スポーツでの推薦入学もおこなわれており、それを利用して入学した学生は通常授業以外でスポーツでの活動義務が課せられています。よって、軍の最低運動はするものの、他の学生たちのような体力運動は免除されて、自分が行っているスポーツへの精進が仕事となっています。かといって彼らが卒業後、すぐにプロ入りが許可されるわけではありません。入学時にかわされた契約によって、卒業後、最低8年間は軍に従事しなければなりません。だから、軍関係の大学に入ると、ほとんどすべての自由を束縛されてしまうということです。欧州などでは、そのようなシステムはなく、だいたいスポーツでの入学などは本来あり得ません。
しかし、アメリカには「スポーツ推薦」という制度があります。ただ、それは優秀な人材を確保するというよりは、甘言を使って軍へのリクルート、つまり、半徴兵がおこなわれているというのが現状です。それらの大学にスポーツ推薦で入ると、一切のお金がかかりません。身の回りまですべてを軍が賄ってくれます。病院 授業料 生活保護(寮費、食費、実家往復の交通費まで)等にいたるまでです。単なるスポーツ推薦とは違います。大学といえども最終的に国に従事するわけであり、いろいろな面で優遇が図られているのです。日本ではとても考えられないスケールのお金がつぎ込まれています。通常の一般スポーツ有名校でも、選手の学費、生活(寮費)は支給されますが、衣服まで及びませんし、そこまでいくと学生連合(NCAA)の規則違反になってしまいます。
また、病気などの疾病の場合、一般大学は学生の自己負担ですが、軍関連はすべて軍病院で無償治療が施されます。さらに、学生全員に毎月給与が払われており、額面で月に1500ドル(邦貨15万円)、そこから税金などが引かれて、手取りで800ドルくらいですが、軍の施設内で売買さている品物やサービスのすべてほとんどが低額に押さえられているので、使い切れません。
学生はもちろんですが、親の負担もありませんし、関係者にとって文句のつけようのない待遇です。
<軍離れ>
一見、非常に恵まれた環境に思えますが、さて大学で4年間 卒業後に5年間軍に従事することは、果して恵まれた環境と言い切れるのか?
卒業後、任務につくと遅かれ早かれ戦場が待っています。私の知人のアーミーチームの元陸上部監督は、年に何度教え子の葬式に参加したからわからないといいます。
アメリカは今、一般学生の軍離れが進み、学生確保に躍起になっています。
しかし、そもそも競争率の高い大学だからいくらでも予備軍には不足しないだろう、と思われるかもしれませんが、そうとはいえません。なぜならば、軍は単なる能力だけでは勤まらず、文武両道のバランスのとれた人材を欲しております。いかに優秀でも、ただ勉学だけの人間を必要とはしていません。でも、望むところの文武両道を兼ね備えた学生が必ずしも来てくれるわけでなく、そのような学生たちはむしろ他のエリート大学を希望します。いうまでもなく、若者は自由を欲しがることは容易に想像がつきます。
そんな中、今、軍関連の大学は積極的にスポーツのできる選手を確保し、スポーツ強化による学校の宣伝活動、アピールに躍起になっています。文武両道の人材確保のなにものでもありません。
近年、軍関連の大学のスポーツの勧誘は、非常に活発で、表面的に"かっこいい"部門を前面に押し出し、汚い部分に蓋をしています。軍関連の大学は年間に約6000人近くの高校生に入学勧誘の手紙を出しています。しかし、学生から返事が戻って来るのは5%の300人くらいで、さらにそのなかの2割くらいしか、運動推薦で入学してきません。
軍の大学で4年を過ごして軍に従事すると、ほとんど多くは海外に一旦行かされ、そこで研修か修行かわかりませんが、数年任務にあたります。帰国後、軍の幹部に昇進しますが、そこに行き着くまでに除隊する学生も少なくありません。
<スポーツと平和>
軍の大学だけの話ではなく、特にアーミーはスポーツ全般に力を入れており、WCAP (World Class Athletes Program )というプログラムを導入し、一般の運動選手でも、五輪を狙える人材を勧誘しています。
入ってきたエリートアスリートたちは最初の6週間、規則などを学ぶキャンプに参加させられますが、その後は、自分の競技に専念できます。ただ、その狙いはあくまでもアメリカ全土で進んでいる若者の軍離れに歯止めをかけるためでもあります。スポーツメーカーなどのスポンサーが行うプログラムは、トップクラスの少数精鋭で育成が図られますが、アーミーチームは相当数を取り、そうすることによりそのまま入隊する選手の増加を期待しているのです。
見た目は非常に楽しくスポーツを体験してクリーンなイメージを展開していますが、本音はいかに隊員を増やすかにあって、一時、甘い汁を吸わせているだけではないかと思います。
さて皆さん、いかがでしょう。
「戦争か、運動か、学業か」
今、世界は経済恐慌の真只中にあり、仕事がなく、失業者の数はさらに増加の一途をたどっていますが、それでも軍への参加が減っているのが今日です。
(終)
WRITER
- 岡本英司
- 1957年9月24日大阪府生まれ。米ワイオミング大学を卒業後、コロラドで理学療法士となる。コロラド大学陸上部コーチを務める一方、91年から世界陸上のレギュラー解説者となり、96年には陸上競技のマネージメント会社を設立。日本人初の国際陸連代理人となる。ルーマニア陸連のアドバイザー兼同国のマラソン選手育成もする。現在、米カリフォルニア州デービスで、世界で一つしかないスタイルのフィットネスジムを経営する傍ら、UCDAVISDで陸上の跳躍コーチ。また、中東カタールのコーチのコーディネートも務める。
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