短期集中連載『遙かなるクーパースタウン』 (中)
(2008年12月24日 18:24)
シアター
野球殿堂のエントランスで入場料16・50ドルを支払うと、左手甲にぺたんとスタンプを押された。見ると、小さな野球のボール。このスタンプさえあれば、何回も出入りできるらしかった。まるで遊園地だった。
ニューヨークから8時間の長旅で、どっと疲れが出て、ベンチに座り、ミネラルウォーターで喉を潤していると、2階からメガネをかけた男性係員が駆け下りてきた。
「午後1時から、2階のシアターで、野球の歴史を紹介したフィルムが上映されます。すぐに来てください」
そう手招きされ、立ち上がり、階段を駆け上がった。やはり季節はずれなのか、シアターにいたのは、頭の薄い父親と5歳ぐらいの太った男の子の一組だけだった。
こんな言葉がある。
「野球殿堂には3回来たいものだ。最初は父親に連れられて。2回目は息子を連れて。そして、3回目は殿堂入りして」
将来、太った男の子がメジャーリーガーにならないとも限らない。そう思い、後部座席を振り返ると、ジロジロ見つめられたせいだろう。鼻くそを丸め、はじき飛ばした。
フィルムが始まり、驚いたのは、いわゆる好プレー特集。外野手のファインプレーがつづき、突然、フェンスに「東芝」という日本語が登場したかと思うと、日本人左翼手がラッキーゾーンの金網最上部によじ登り、手を伸ばして好捕した。
「オー」
後部座席の父親が声をあげた。
阪急の山森雅文だった。1981年9月16日。西宮球場。弘田澄男(ロッテ)のホームランをもぎ取った山森は、メジャーリーグから特別表彰を受けたのであった。
大ホール~中庭
フィルムが終わると、1階に下り、殿堂入りした選手たちのレリーフが並ぶ大ホールに向かった。
足を踏み入れたる瞬間、さすがに緊張感が高まった。大ホールは荘厳な雰囲気に包まれていた。選手たちの顔は、想像したものと違い、顔が浮き立っており、しかも黄金色。重々しく、同時にきらびやかな光を放っていた。2008年1月現在、殿堂入りした選手は228人。関係者を加えると、286人。
WRITER
- 松下茂典
- ノンフィクションライター。石川県金沢市出身。明治大学卒。主な著書に『松井秀喜・55の言葉』(東京書籍)、『神様が創った試合』(ベースボール・マガジン社)などがある。
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