『やっとつかんだ夢の舞台―拓殖大学、4年ぶりの箱根路』
(2008年12月24日 18:12)
拓殖大学陸上部
駅から歩くこと数分。閑静な住宅街を抜けたところに拓殖大学陸上部の寮はある。
駅前の喧騒をよそに、ここ拓殖大学の練習場はとても静かで陸上に専念するにはうってつけの環境にある。
この日は自由練習。寮を出た選手たちは各自課題を持って夢の実現に向けて走り出す。
話しを聞くために訪れたこの日も、選手を待っている間、辺りはシーンと静まり返っていた。「大学」・「体育会系」しかも「男子」と聞くと、男臭く騒々しいイメージを想像していたが、そんな空気は微塵も感じられなかった。しかも、予選会突破直後ということもあり、選手たちに箱根という夢の舞台に出場できることへの興奮も少なからず漂っていると感じていたので、ことさら意外に思えた。
落ち着いた雰囲気に落ち着いた選手たち。
だが、胸の内には箱根への熱い思いが詰まっていた。
4年生の執念
「地元の熊本を出て、東京の大学に来たのはすべて箱根に出るため」
こう語るのは4年の西仁史。
拓殖大学は2005年の第81回大会を最後に、つまり今の4年生が入部してから3年間、箱根の舞台から遠ざかっていた。
2年前の第83回大会予選では1秒差で出場権を逃すという悲劇も味わっている。4年生にとっては、ようやく掴み取った念願の出場権。
「ずっと目指していた舞台なので、"やっと"という感じ。楽しみです」
(伊藤太賀主将・4年)
「4年ぶりの出場というより、(陸上を始めた)中学からずっと目指していた舞台。それをやっとつかんだ」
(小路優人副主将・4年)
堰を切ったように、溢れ出る部員達の口々に、箱根への想いがみなぎっていた。
「とにかく悔いを残さないように。今回出て終わりではなく、伝統として出続けていくためにシード権をとることしか考えていない」
(伊藤主将)
「出たくても出ることができてなかった大会にやっと出れる。全力を出せるようにしたい」
(小路副主将)
「走るからには順位を上げたい。目標はシード権」
(西選手)
落ち着いた面持ちとは裏腹に、逸る気持ちを必死に抑えようとする部員たちの姿がそこにあった。
4年生にとっては最初で最後。箱根出場を現実のもとして、モチベーションを一層高め練習に励む4年生の姿を見ていれば、後輩たちへと波及する相乗効果もいわば必然か。
「4年生が頑張っているのを見て、自分たちも頑張ろうと思える」
「4年生が強いから、安心して走ることができる」
かつてないほど頼もしい言葉が下級生の中からも聞こえるようになった。
練習開始前、全部員が集合し、意志統一を図ったミーティングが行われる。緊張が走る。
信頼
伊藤主将は「もともと今年の4年生は自主性があり、"自分がまず頑張ろう"という意識を持っている。それによって誰かが刺激を受けて頑張るという、いい環境ができている」、「初めての箱根なので、緊張する選手もいるかもしれない。だから、4年生が引っ張って後輩がリラックスできる空気を作らなければいけない」と口にする。
伊藤主将はけっして口数の多いタイプではなく、自分の背中を見せることでチームを引っ張ってきた。ここへきて互いの信頼感を肌で感じている。
「今年は特に1年生などのたたき上げがすごい。下の代が頑張ってくれていることが、チームにいい刺激を与えている。すごくうれしいし、ありがたいことですね」
小路副主将も同調する。
この互いの信頼関係がもたらすケミストリー。これが拓殖大学陸上部の最大の強みであり、今回箱根の出場権を得た大きな要因の一つでもある。
練習を見ていると、各学年間を隔てる壁はなく、終始穏やかな雰囲気が見てとれる。
しかし、これは一方で、仲良しクラブの馴れ合いチームになる危険性とも隣り合わせだ。
そんな心配をよそに、2年生の西山洋平選手が「1年生の勢いがあったからここまで来れた。正直怖いとも思うし、焦りもある。でも負けてはいられない」と語る。
協調・尊敬と同時にチーム内の競争意識も忘れてはいない。このチームには互いに信頼し、刺激し合いながら競い合うという理想的な環境ができている。もっと言うと、これがないとチームの雰囲気もよくならない。
今年の拓殖大学には、この「チームが強くなる必須条件」が自然と備わっていたのだ。
WRITER
- 矢沢彰吾
- 1986年 神奈川生まれ。サッカーを始めとしたスポーツ、国際紛争まで幅広い活動を展開する新進気鋭のジャーナリスト。
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