『競馬はドラマだ!』
(2008年12月10日 17:35)
「競馬はギャンブルか」
競馬は単なるギャンブル競技なのか。実際、筆者も競馬場へ行けば、仕事の合間に必ずと言っていいほど馬券売り場の前で競馬新聞、オッズ表と睨めっこしている。
我々のような馬券購入者が競馬サークルを支えているのだろうが、馬券が外れりゃあ「もう競馬なんて...」 と何度思ったことか。が、その一方で、時として掛け値なしに満足感に浸れることも少なくない。
たった1頭のサラブレッドに様々な人間が関わっている。馬主、調教師を始め、生産牧場、厩務員、騎手、それにファン。ほとんどの馬が、未勝利で終わるなか、ほんのひと握りだけが大舞台への切符をつかむ。頂点までの道のりは長くて険しい。が、その頂点には栄光が、敗者には屈辱が待っている。そこにギャンブルの枠を超えたドラマが生まれるのだ。
天皇賞・秋。大歓声がゴールの瞬間を呑み込んだ。 稀に見る大接戦に歓声は鳴り止むことはなかった。 そして、確定まで10分余り、それはざわめきに変わった。
「天皇賞・秋」
11月2日、天皇賞・秋。女傑2騎ウオッカとダイワスカーレット、そして今年のダービー馬ディープスカイによる3強対決に注目が集まった。
レースは安藤勝己騎乗のダイワが、前半から淀みのないラップを刻み逃げを打った。四位洋文騎乗のディープが中段手前につけ、その直後に武豊騎乗のウオッカが、ライバル2頭を見る形でレースは進んだ。
前半1000Mのタイム58秒7は、GⅠレースのなかでもハイペースの部類に入る。このペースで逃げ切ることは並みの馬にはできない芸当だが、最後の直線に入ってもダイワの脚いろは衰えるどころか、鞍上のムチに鋭く反応していた。それを必死で猛追するディープとウオッカ。他の14頭を尻目に、直線半ばからは3頭のマッチレースとなった。
直線の長い府中を、12万の観衆は息をのんで見守り続けたが、最後はウオッカとダイワが鼻面を並べてのゴール。しかも1分57秒2は天皇賞のレコードタイムだ。両者ともガッツポーズは見せず、ウイニングランもない。検量室に引き揚げてくると、1着の枠場に入ったのはダイワでウオッカは2着の枠場。
確定ではない。
肉眼ではジャッジできない2頭の差は、写真判定に持ち越された。
武は真一文字に口を締め、安藤はサバサバとした表情で判定を待つ。他のジョッキーも勝者は興味津々に、「どっちだった?」と報道陣に聞いてくる。が、我々も首を傾けるしかない。
5分、10分と経過しても判定が決まらない。特に、武は気が気でなかったろう。99年の有馬記念が思い出される。長い写真判定の末、武騎乗のスペシャルウィークが、グラスワンダーにハナ差負けという苦い思いが否が応にも悩裏をかすめさせるからだ。
13分の長い静寂の末、確定ランプが点灯した。検量室中にドッと歓声が上がった。ウオッカだ。わずか2センチでの勝利だった。
「本当にどっちが勝ったのか分かりませんでした。判定の結果が出るまでは生きた心地がしませんでしたよ。いやぁ~、今回のレースはしびれましたね。もう同着でもいいと思っていたぐらい」と武の表情が一気に緩んだ。
一方の安藤は、「悔しいことは悔しいけど、正直、負けていると思っていたんだ」とあっさりしたものだった。
「休み明けで道中も力んで走っていたのに、この内容だからね。改めてこの馬の凄さを感じたよ。びっくりだね」とパートナーを褒め称えた。
3着に負けたディープの四位は、「一瞬、『オッ』と思ったし、あそこまで行ったら勝ちたかったよ。でもダービー馬として恥ずかしくない競馬はできたからね。次(ジャパンカップ)で結果を出したい」と悔しさをかみ締めるようにリベンジを誓った。
年間に関東圏で行われるGⅠ(JRA)は11レース。そのすべてに立ち会ってきたが、この秋、2つの〝歴史的な瞬間〟の目撃者になった。記録にも記憶にも残る勝負だった。
WRITER
- 鈴木亨
- 1972年3月14日、北海道札幌市生まれ。幼少時は札幌競馬場近くの八軒で育ち、競馬に触れる。高校時代はレスリング部に所属。大学入学を機に上京。90年の日本ダービーで、アイネスフウジンの“ナカノコール”に衝撃を受け、本格的に競馬にのめり込む。大学卒業後は海外を放浪。98年、サンケイスポーツにアルバイトとして入社。サンスポ編集部を経て競馬エイトへ。02年、トラックマンデビューしていまに至る。現場では想定班を担当。
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