『障害戦に競馬の醍醐味見つけたり』
(2008年11月26日 17:10)
中山競馬場。上空から見下ろせば、まるで高速のインターチェンジ。障害戦は、この山あり谷あり、そして水濠あり竹柵ありの"迷路"を人馬が果敢に挑む。
落馬は日常茶飯事
先日、京都競馬場で行われたGⅠ・エリザベス女王杯で、武豊騎乗のポルトフィーノ(3番人気)がスタート直後に落馬し競走中止になった。翌日のスポーツ紙の一面はレース結果ではなく、この落馬だった。
「さすがにGⅠ。しかもユタカが落ちるとニュースになるんだよなぁ。うちの馬なんて何度落馬しているか分からないよ」(某厩務員)。
競走中の落馬はごく稀なことだが、中央競馬には常に落馬と隣合せのスリリングな競走がある。
障害戦。競馬ファンならお馴染みだろうが、ビギナーや一般人にはあまり知られていないのが実情だ。1週間に72レース(3場開催の場合に限る)ある番組の中で、1レース、多くても3レースしか組み込まれていないからである。武豊、安藤勝己といったトップジョッキーが騎乗することはなく、ほとんどが午前中の"前座"の扱いだ。恥ずかしながら、筆者も競馬を始めた当初は存在すら知らなかった。が、初めて障害戦を目の当たりにした時の衝撃は忘れない。
GIを凌ぐ迫力
平地戦の1000M~3600Mに比べて、障害戦は2700M~4200Mの長丁場だ。各競馬場(札幌、函館を除く)の内馬場に専用のコースが設けられており、そこを1周半から2周する。山あり谷ありの起伏の激しいバンケットを駆け、水壕や竹柵といった障害物を跳び越え、最後は平地戦の攻防と同じく直線勝負。コース形態も各競馬場様々で、言うなれば単調な平地戦よりもバラエティに富んだレースが楽しめる。そして、迫力だ。ひとつの障害をクリアした時の手に汗握る緊張感は、時にGⅠのそれを超えるほどだ。
「落馬なんて日常茶飯事だったよ」とサラッと語るのは、現役時代に〝障害戦の豪腕〟として名を馳せた臼井武元騎手。現在は尾形充弘厩舎の右腕として調教助手を務めている。
「レースの数が少ないから、勝たないとメシをまともに食っていけないからね。落馬を恐れていたら勝つものも勝てないでしょ?」
まさに体を張った勝負だ。「落ちたら無意味に動かないこと。馬っていう生き物は本能的なもので、人間を踏まないんだ。でも、通り過ぎていくときの轟音は恐ろしいものがある」
想像しただけで青ざめてしまう。騎手には騎乗手当てというものがあるが、障害戦の騎乗料は平地戦よりもはるかに高い。数年前には、新人騎手が落馬の影響で死亡するアクシデントも起こっている。それほど危険と隣り合わせにいるということだろう。
障害戦に賭けた騎手魂
馬のレベルも様々で、下は未勝利馬から上はオープン馬までいる。それまでフラットなコースしか走っていなかった馬が、果していきなり起伏の激しい障害コースを走れるものなのか? 馬の質を問わず一から教え込むのも騎手の役目なのだ。
「まず馬の体形を見るんだ。コロンとしてピッチ走法の馬よりも、足長でバネの大きい馬が適している。あとは気性。調教で何とかなる場合もあるけど、気持ちだけが先走っている馬は時間がかかるね。落馬の率も多くなるもの。でも、時には調教師には逆らえない場合もあるかな(笑)」(臼井調教助手)
トレセン(美浦トレーニングセンター)の障害コースでは、毎日のように手取り足取り馬に教え込んでいるジョッキーの姿を目にする。とてつもなく根気のいる作業だ。
「報われないときの方が多いけど、自分で調教した馬が実戦で走ってくれると嬉しいですね。未勝利戦でも、勝つとガッツポーズをしちゃうときもありますから」と彼らは笑顔で答えてくれた。そのほとんどが中堅に差しかかってきた騎手だが、障害騎手としてはまだ〝若手〟だ。
現在、東西で約160名の騎手が在籍しているが、日の目を見るのはほんのひと握り。騎乗技術は高いが、営業力に欠けていれば騎乗依頼はこない。そんな中堅の"若手"が障害戦に活路を見出す。
彼らにも夢の大舞台が待っている。障害戦の暮れの名物・GⅠ中山大障害(芝4200M)だ。最大の見せ場は大竹柵障害だ。この難関を全馬がクリアすると、観衆がスタンディングオベーションで人馬に拍手を送る。
12月27日(土)。今年も有馬記念に負けぬ劣らぬベストパフォーマンスを期待している。
(終)
WRITER
- 鈴木亨
- 1972年3月14日、北海道札幌市生まれ。幼少時は札幌競馬場近くの八軒で育ち、競馬に触れる。高校時代はレスリング部に所属。大学入学を機に上京。90年の日本ダービーで、アイネスフウジンの“ナカノコール”に衝撃を受け、本格的に競馬にのめり込む。大学卒業後は海外を放浪。98年、サンケイスポーツにアルバイトとして入社。サンスポ編集部を経て競馬エイトへ。02年、トラックマンデビューしていまに至る。現場では想定班を担当。
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