短期集中連載『だからオリンピックはやめられない』
(2008年11月26日 16:50)
超満員で埋めつくされた北京五輪メインスタジアム。ここからボルトの100メートル「9.69」の快挙が生まれた。
表情百態
どうしてこんな表情になるんだろう。どうしてそんな表情ができるんだろう。
夏、冬のオリンピックを訪れて、そんな風に、はっとさせられることがこれまでにたびたびあった。
例えば、2006年トリノ五輪、カーリング日本代表のスキップ(作戦を組み立てるチームの要)を務めた小野寺歩の気迫に満ちた表情。
例えば、今年8月の北京五輪、準決勝で勝利しメダルを確定させた太田雄貴が爆発させた喜び。
あるいは、やはり北京五輪で5位に終わり、五輪で初めてメダルを逃がしたシンクロナイズドスイミング・チームの面々の、すべての感情を失ったかのような顔。
オリンピックに行くたびに、そんな、いつまでも心に焼きつく表情に出会ってきた。
4年に一度
4年に一度という不思議なサイクルで行なわれるオリンピックは、そのサイクルゆえに、アスリートを苦しめもする。
以前、ある競泳の選手がこうつぶやいたことがある。
「もっと間隔が短ければ......。何度も出られれば経験を積んで、体も万全のうちに臨めるのに」
そう、たいていのアスリートは、一度か二度しか出場する機会を得ることができない。つまりはスポーツにおいて重要である経験を積み重ねることは困難である。
だから多くの選手は初めての大舞台の重圧に苦しむ。対処に戸惑う。
幸いにして複数回、出場を果たせるとしても、肉体的なピークを維持し続けることは難しい。
経験を持ったうえで、肉体のピークの状態で臨むことが困難なのである。
そんな不思議な区切りで行なわれるオリンピックを目標に定めて、アスリートたちは、歩んでいくことになる。
それは決してやさしいことではない。
注目されることのない、地道な練習。ときには休みたくもなる。それでも歯を食いしばり、トレーニングを続ける。
競泳選手であれば、1日に何時間もプールの中でターンを繰り返し、マラソン選手であれば、走りこむ時期は1日に何十kmも走る日が続く。
そして選手には支えも必要だ。指導するコーチ、悩みに耳を傾けるスタッフ、万全の肉体であるように手を尽くすトレーナーなどなど......。彼らもまた、選手とともに、4年間、走り続ける。
だからこそ、選手たちはコーチやスタッフと抱き合って涙を流し、感謝を捧げる。
選手、コーチ、スタッフ、誰も彼も、4年間の歩みがオリンピックの場の、ごくわずかな時間で問われるのだ。
その時間にすべてを出し尽くそうとする。重圧に押しつぶされそうになる。そのとき、スポーツならではの研ぎ澄まされた表情が形作られる。
その表情に、惹きつけられてきた。
WRITER
- 松原孝臣
- 1967年、東京都生まれ。早稲田大学を卒業後、フリーライターとして活動。1998年から「Sports Graphic Number」編集部に勤め、今年独立し再びフリーに。夏季・冬季両方の五輪種目を中心に取材活動を行なう。著書に『高齢者は社会資源だ』がある。
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