『地獄を見た男―柴山雄一』
(2008年11月12日 16:25)
タイル貼り職人になるはずが・・・
06年、中山金杯を制したヴィタローザ号と柴山雄一騎手。悲願のGⅠ制覇に向けて柴山の挑戦は続く。
地方競馬所属の騎手に、中央競馬への移籍が認められてから6年が経つ。いまや中央競馬はその"外様"騎手の天下といっても過言ではない。移籍第一号となった安藤勝己を始め、岩田康誠、内田博幸、小牧太と蒼々たる顔ぶれがリーディング上位を独占している。その中で、移籍4人目となった騎手をご存知だろうか?
『雑草魂』とでも言うべきか、どん底から何度も這い上がってきた男だ。
柴山雄一。今年で移籍4年目を迎え、先日、JRA(日本中央競馬会)通算200勝を達成したばかりの騎手である。あのオグリキャップを輩出した、笠松競馬(岐阜県)出身で、安藤勝己もここで育った。当地でも通算393勝を上げた。地方騎手特有の躍動感溢れる騎乗スタイルで、最後の直線の叩き合いでは、迫力ある鞭が僅差で勝利を呼びこむ。だが、いまだにGⅠ勝ちには恵まれていない。ただ、この秋、念願のGⅠ勝ちを狙える馬に巡り会えた。長い道のりだった。
78年2月、柴山は大阪府で生まれた。小学2年のころ、タイル貼り職人であった父が他界し、それからは漠然と幼少時から見ていた父の仕事を目指した。が、中学3年の冬、母がテレビで競馬学校に関するドキュメンタリー番組を見て、「あんた、背が小さいんだから騎手になりなさい」と勝手に入学志願書を送付した。
「競馬なんてまったく知らなかったんですよ。でも、ちょっとだけ気になったので京都競馬場へ行ってみたんです。そうしたら今までに見たこともない迫力で...。これは凄いなと」。
サラブレッドの美しさ、それを巧みに操る競馬騎手が、平凡と暮らしていた柴山の憧れの存在になるのに時間はかからなかった。
遅咲きジョッキー誕生
中学を卒業後、競馬学校の入学試験を受けるも3年連続で不合格。「何か策はないものかと競馬雑誌を買いあさったんです。そうしたら牧場スタッフの募集要項を見つけてすぐ、『これだ』と思いましたね」。
この時、すでに高校3年の夏。同世代のジョッキーが未来を夢見てデビューするなか、柴山は1年間、牧場でアルバイトをした。牧場スタッフの紹介で笠松競馬場へ。98年、笠松競馬の騎手としてデビューした。20歳の遅咲きジョッキーの誕生である。
しかし、競馬騎手は甘くはなかった。まず柴山の前に立ちはだかったのは体重の壁だった。体重オーバーのため直前で乗り替わるというケースが何度も続いた。最初のうちは目をつむっていた笠松競馬も業を煮やし、"クビ"を告げた。「騎手になったことで満足してしたんでしょうね。本当にあのころは甘かった」。
だが、師匠の飯干秀人調教師は見捨てなかった。愛弟子のために、土下座をせんばかりに関係各所に何度も頭を下げにまわった。おかげで首の皮一枚だった柴山に、騎乗のチャンスは残された。さらに、兄弟子の安藤光彰騎手(現JRA騎手)も一緒になって汗取り(減量)に付き合ってくれた。ただ、一度失った信用を回復するのは容易ではない。このとき、柴山のなかで何かが変わる。
「ここまで自分をサポートしてくれる人は普通はいませんからね。お世話になった方々、いや、自分のためにも頑張らなければと思いました」。以降、柴山は人が変わったようにがむしゃらに前だけを、ゴールだけを見つめて必死に追った。結果はついてきた。04年には笠松リーディング4位にまで上り詰めた。
WRITER
- 鈴木亨
- 1972年3月14日、北海道札幌市生まれ。幼少時は札幌競馬場近くの八軒で育ち、競馬に触れる。高校時代はレスリング部に所属。大学入学を機に上京。90年の日本ダービーで、アイネスフウジンの“ナカノコール”に衝撃を受け、本格的に競馬にのめり込む。大学卒業後は海外を放浪。98年、サンケイスポーツにアルバイトとして入社。サンスポ編集部を経て競馬エイトへ。02年、トラックマンデビューしていまに至る。現場では想定班を担当。
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