『スポーツビジネスの現場を歩いて』
(2008年11月12日 16:07)
日本のスポーツビジネスは、2000年あたりから急速に発展してきた。中でも、スポーツマネジメント会社の増加が著しい。
スポーツマネジメント会社が手がけるビッグビジネスといえば、ゴルフ大会や海外チームを招聘したボールゲームなどのイベントだ。小さな会社でも、アイディアとコネクションがあれば企画を立ち上げることができる。しかし、運営や放映権交渉、スポンサー集め、マーチャンダイジングなどの領域は、大手広告代理店を絡めないとおぼつかない。あるスポーツマネジメント会社の幹部は苦笑していた。
「スポーツイベントがマネーゲームなのは、誰も否定できないでしょう。その余波で、イベント規模が巨大になるほど、運営側の政治力や資金力が問われるようになります」
だから彼の会社では、企画を電通や博報堂あたりへ持ち込む。
「大手代理店と動くほうが仕事はスムーズです。代理店もカネになる企画を歓迎しますし、持ちつもたれつの関係は心得ていますから、こちらに難題をふっかけたり、法外なマージンを要求するようなことはありません」
欧米では代理人ビジネスが盛んで、メジャーリーグだと松坂大輔にスコット・ボラス、松井秀喜とアーン・テレム、イチローはトニー・アタナシオという具合に有名選手には大物代理人がついている。何十億円という契約が結ばれるのは、選手の活躍や可能性に加え、代理人の交渉能力によるところが大きい。
だが、日本で代理人ビジネスはまだ確立していない。サッカーが端緒につき、野球は暗中模索だ。日本のプロ野球選手代理人はいう。
「メジャーでは凄腕の代理人が複数の選手を抱えています。ところが日本には、代理人が1シーズンに抱えられる選手は一人だけという暗黙の了解があります。これでは、代理人がネゴシエーションの技を磨こうにも、実体験の数が少なくてスキルアップできません」
彼は、日本の代理人ビジネスの実像について、こうも語った。
「日本では代理人の懐が潤いません。初回に球団が提示した金額と、その後の交渉で上積みされた額の差額の一割ほど褒賞金に、諸経費や着手金で二、三十万円が加わるくらい。数十億円の特大契約をまとめ、何億円も手中にできるメジャーの代理人とは大違いです」
最近では、あの吉本興業がアメリカのCAAと業務提携を結んだ。CAAは映画関係のシンジケート的存在だったが、2年半ほど前からスポーツ選手の代理業務を積極的に展開中で、デレク・ジーターやデビッド・ベッカムらを手がけはじめた。
一方の吉本は、お笑いプロダクションとしての実績が目立つものの、埼玉西武ライオンズの石井一久やボビー・バレンタイン監督らのマネジメントを行っている。元メジャーリーガーの長谷川滋利も一員だ。長谷川に関しては、現役のプロ野球選手から、「海外移籍のことで相談にのってもらった」という話を聞いた。「CAA‐吉本」の提携で長谷川が活躍したら、日本球界の意外な大物がメジャーへ移籍する可能性もでてくる。何より、利に聡く、世の動きに敏感な吉本がこの世界に進出するとなれば、それこそ「スポーツビジネスはおいしい」ことの証左といえよう。
WRITER
- 増田晶文
- 1960年大阪府生まれ。同志社大学卒後、10年の会社員生活を経て作家に。Numberスポーツノンフィクション新人賞、小学館ノンフィクション賞などを受賞。主な著作に『果てなき渇望』『速すぎたランナー』『吉本興業の正体』『父と子の中学受験合格物語』などがある。
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