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『リディア・シモンというランナー(前編)』

アスリートバンク サイト管理者 (2008年11月12日 15:56)

血染めのシューズ

特集写真米コロラド州ボルダーに自宅を構え、ここを拠点に強靱な肉体を築きあげ、世界のレースに向かう。

私が初めてシモンに会ったのは、1995年スウェーデンで行われた世界陸上の時でした。非常に華奢で、かわいいお嬢ちゃんって感じで、ほとんど英語も話さず、ただこの子がマラソン走るの? って。結果は、2:33:18で10位。

ルーマニア代表として初めて臨んだ大きな大会参加で10位は上出来でした。しかし、記録は2時間33分台と、世界のトップには、まだまだです。試合後、彼女の履いていた靴を見て私は考えを改めました。血が滲んだのを通り越し、真っ赤に染まっていました。ここまで出血していると、普通は途中棄権です。私は血染めの靴をながめながら、ある種恐怖感を覚えました。

その数分後、ゴールで倒れ込んでいる彼女を医務室へ連れていきました。そこで彼女のシューズを脱がすと、靴下も真っ赤で、白い部分が全く残っておらず、まるで赤い色の靴下を履いてるよう。靴下を脱がそうとすると、彼女は痛がるので、ゆっくり、ちょうど、桃の皮を剥くように、靴下を引き下げて行くと、なんと靴下の繊維が彼女の足の裏に食い込んでいます。

走っているうちに足の裏の皮膚がめくれて、皮膚の下の柔らかい組織に、靴下の繊維が食い込み、脱がせる状態でありません。しかし、治療のため、痛がる彼女を押さえ込んで靴下をとると、そこには、繊維の後がしっかり残っていました。見ている方が気絶しそうなのに彼女は声も出さず、じっと我慢して、治療を見守っていました。

私自身今まで、いろいろな選手を見てきましたが、ここまで壮絶な姿を見たのは初めてでした。足裏の治療を受けた彼女は、なにごともなかったかのように、医務室を後にしました。そのとき、「この子は大きく化けるのではないだろうか」、この先マラソンで勝てるだけの要素をもっているのではないだろうかと、わくわくさせられました。 その後、ちょうどルーマニア陸連会長(東京五輪女子走り高跳び金メダリスト/イオランダ バラシュさん)が私の元を訪れ、「シモンをマネージメントできないか、彼女にはマネージャーがいないし、この先この子はのびる要素がある」と、彼女の才能を認めていたようです。

生い立ち

世界選手権終了後、一度アメリカに戻った私は、この若いシモンを今後どう導くかを考え、方針を作成し、ルーマニアを訪問してリディアと会いました。

彼女の横には、ニコニコした男性が一緒に立っていて、彼女の夫だとのこと。まだあどけなさの残るこの子が結婚している、まだ22歳であるのに。

しかし、社会主義の国は、総体的に結婚ははやく、18歳で女性は、男性は20歳で結婚するらしく、また、リディアが生まれ育った クライオバ地区は、日本で言う上州の空っ風で、かかあ天下の地。いくら女性が年が若くても、しっかりした考えをもってしっかり男性を尻に敷く伝統があるようでした。そんなしっかりした女性が育つ土壌があるのか、ほとんどのルーマニアの長距離選手は、クライオバから生まれ育っています。

打ち合わせは英語で行っていたが、ほとんど通じていないようで、かえってくる答えは、すべて「ダー(イエスの意味)」。心配になったが、今後のレースについて話し合い、96年からの予定、スポンサー契約の話なども行いました。

WRITER

岡本英司
1957年9月24日大阪府生まれ。米ワイオミング大学を卒業後、コロラドで理学療法士となる。コロラド大学陸上部コーチを務める一方、91年から世界陸上のレギュラー解説者となり、96年には陸上競技のマネージメント会社を設立。日本人初の国際陸連代理人となる。ルーマニア陸連のアドバイザー兼同国のマラソン選手育成もする。現在、米カリフォルニア州デービスで、世界で一つしかないスタイルのフィットネスジムを経営する傍ら、UCDAVISDで陸上の跳躍コーチ。また、中東カタールのコーチのコーディネートも務める。

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