『松坂大輔の2年間は正しかったのか(後編)』
(2008年11月12日 15:53)
レッドソックス躍進の切り札
エプスタインGM イェール大卒の秀才。1973年生。28歳の時、メジャー史上最年少(当時)レッドソックスのGMに就任。写真は今年3月の開幕戦来日時。
これまで2年間の投球内容を振り返れば、松坂大輔の実績が「1億ドル投手」の看板に相応しかったのかどうかは疑問の残るところかもしれない。しかしその一方で、筆者の友人記者である「ロイター通信」のラリー・ファイン氏はこんな話をしてくれたことがある。
「セオ・エプスタインGMの音頭でレッドソックスが松坂獲得に全力を注いだことは、いわばヤンキースへの挑戦状だった。それが功を奏して昨季ヤンキースの地区連覇に終止符を打ったのだから、松坂の入団自体が分岐点だったと言えるのかもしれない。躍進の切り札として入団し、その重圧に負けずこれだけの成績を残しているのだから立派なものだよ」
実際に松坂を獲得して以来、レッドソックスは昨季に3年振りに世界一の座を奪還し、今秋も2年連続のワールドシリーズ進出にあと一歩まで迫った。宿敵ヤンキースとの立場も完全に逆転し、今やMLBで最も尊敬されているフランチャイズの1つとなった。
スポーツとは基本的に勝利を最終目的にプレーされるもの。入団してからチームは絶えず勝ち続けているのだから、それだけでも松坂の過去2年間には付加価値が付けられるべきなのかもしれない。
特に彼の貢献度は2年間で33勝という成績だけでない。松坂の獲得自体がレッドソックスがチームとしてのレベルを一段上げる契機と成ったように思えるのだから、存在価値はなおさら高いと言えるのだ。
1億ドル投手の意味
松坂とレッドソックスがここまで歩んできた流れは、ペドロ・マルチネス入団以降のメッツの上昇振りと似通っている。
2004年オフ、メッツはFA権を得ていたペドロに4年5300万ドルもの大型契約を提示。衰えの垣間見えた元最強右腕に「払い過ぎ」との批判は当初から多く、案の定、ペドロはそれから2年と待たずに故障を繰り返すようになってしまった。それでも現在のニューヨークで、メッツのペドロ獲得を「失敗」と捉える人はほとんどいない。それまで低迷を続けていたチームが、ペドロ獲得以降に安定感のある強豪チームへの階段を昇って行ったからだ(メッツは2006年に00年振りに地区制覇し、その後2年もシーズン最終週まで優勝争い)。
1人の大物スターを全力で獲得に行ったことで、メッツは戦力強化に本腰であることを全米に示した。その後、カルロス・ベルトラン、カルロス・デルガドといった多くのスター選手たちがペドロの後を追いかけ、結果としてチーム内には常に勝利を予期する空気が新たに生まれたのである。
2006年オフにレッドソックス入団した当時の松坂には、ペドロのようなメジャーでの圧倒的な実績はもちろん備わっていなかった。
しかし「日本のエース」と唱われた投手を1億ドルもの大金を費やして強奪したことが、レッドソックスから世界に向けての強力なステイトメントとなったことは確かだろう。選手たちももちろん勝ちたいのだから、勝てる可能性のあるチーム、その目標に情熱を燃やしているチームに引き寄せられるもの。
WRITER
- 杉浦大介
- 1975年生、東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシング・マガジン』『スポーツナビ』『日本経済新聞』など、多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。
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