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『42歳のボクサー・西澤ヨシノリ、豪州で再始動、何故まだ闘う?! ----折れぬ魂(後編)』

アスリートバンク サイト管理者 (2008年10月27日 14:04)

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西澤ヨシノリ月曜日から金曜日まで午後の3時間は『ヨネクラジム』で汗を流す。ジムまでは"愛車"のチャリンコで。

西澤はプロデビュー戦を3回KOで華々しいスタートをきった。以来、引分けを1つ鋏んで5連勝。全日本新人王にも輝いた。そのままチャンピオンロードを一直線にひた走るはずだった。

ところが、その新人王戦で拳と鼻骨の骨折、次戦では肋骨まで折り、手術、入院、リハビリと1年3カ月のブランクを余儀なくされた。世界一を目指す西澤にとって、こんなところでベッドに横になっている暇などない。西澤は焦る気持ちをよそに天井を相手の顔面に見立て、それに向かって左ジャブを打っていた。闘争心だけは常に磨き続けていたのだ。

だが、ケガは完治しても勝負勘はそう簡単に戻ってくれるものではなかった。復帰後、5年間の戦績は2勝(1KO)8敗3分と惨憺たる結果だった。日本タイトルに3度挑戦するもことごとく失敗に終わり、ロッカーに向かう通路で情け容赦ない罵声を浴びせられた。

「お前なんてやめちまえ!」

西澤はそれを単なる野次とは受け取ることができなかった。顔見知りの、それまで贔屓にしてくれていたファンの声だったからだ。

「ショックでした。『なにくそッ』って思いましたが、返す言葉も見つからない。泣きながらシャワーを浴び、汗といっしょに涙も流しましたが、心の中までは洗い流してはくれませんでした」

ドン底だった。

そんな西澤に這い上がる力を貸したのが故郷と家族だった。

西澤は口先ばかりの「世界一」の夢をしばし封印し、自分を厳しく律するために、故郷上田にほど近い軽井沢の山中でひたすら走った。故郷といえども氷点下が続く厳冬の軽井沢は、西澤を優しく迎えてはくれない。ただ、厳しい自然の中でもがき苦しむその姿を見守る"故郷"は、間違いなく西澤を復活の舞台へ送り出すサポーターだった。

山から下りた西澤を待っていたのは、人生における最高の出会いだった。後に妻となる英美だ。同門の世界チャンピオン・川島郭志のタイトル防衛祝賀パーティーで受付をしていた西澤の前に、大のボクシングファンを自称する英美が現れた。西澤のひと目惚れだった。それまでリングでは見せたこともない猛ラッシュで一気に英美との交際に持ち込んでしまったのだ。

「これまでずっと自分の夢だけのために闘ってきたが、『コイツのために勝ってやる』と、初めて人のために闘おうと思った」

故郷の自然が西澤の強靱な肉体を鍛え直し、英美の存在が西澤の内に巣喰い、闘うモチベーションとしたのである。

「もうこれ以上、負けるわけにはいかない」

英美と出会って初めての試合が、4度目の日本タイトル挑戦だった。西澤はリングサイドからこれまで注がれたことのない熱い視線を感じていた。以前の西澤ではない。メスのために闘う獰猛と化したオスの前に、もはや敵はいなかった。

「勝ちたい、勝たなければならない!」

第2ラウンド、西澤は左フック一発でチャンピオンをマットに沈めた。完全復活である。西澤は初めて腰にチャンピオンベルトを巻いた。だが、まだ「日本一の」である。以降、タイトル防衛、東洋太平洋のタイトル獲得・防衛と世界一の扉へ一歩一歩近づいていった。一粒種の長女・由華も誕生し、背負うものが増えた分、西澤のファイティングスピリッツはさらに強固なものになっていった。

WRITER

黒井克行
1958年北海道旭川市生まれ。早稲田大学を卒業後、出版社勤務を経て、ノンフィクション作家として独立。著書に『テンカウント』(幻冬舎文庫)、『高橋尚子夢はきっとかなう』(学習研究社)、『高橋尚子勝利への疾走』(講談社α文庫)、『工藤公康プロフェッショナルの矜持』(新潮社)、『男の引き際』(新潮新書)などがある。日本大学法学部講師も務める。

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