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北京五輪惨敗からWBCに向けて日本野球に再生はあるか?(緊急インタビュー)元全日本監督・石山建一氏に聞く

アスリートバンク サイト管理者 (2008年10月14日 19:55)

先の北京五輪で金メダルの期待がかかった野球がまさかの4位に終わった。当時考えられる日本最強のメンバーをプロの中から選抜し揃えたはずの"星野ジャパン"だったが、......何故だ!

監督の采配、けが人の続出、精神力の弱さ、ストライクゾーンの違い等々、その敗因を求めて球界内外からさまざまな意見が飛びった。来年3月には第2回のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)が控えている。ディフェンディングチャンピオンの日本にとって、何としても王座を死守したいところだ。もう北京と同じ轍を踏むわけにはいかない。折しもプロ野球人気が下降をたどっている現状がある。この流れに歯止めをかけるためにもWBCで結果を残し、強い日本を世界にアピールしなければならない。

かつて全日本監督として野茂と古田のアマチュア最強バッテリーを率い、またプリンスホテル監督として一カ月にわたるキューバ遠征を行なった経験のある元全日本監督・石山建一氏に聞いてみた。

北京五輪写真

---結局、北京での惨敗の原因は何ですか?

「まず第一に、ペナントレースと国際大会での戦い方は違うということを認識しなければなりません。

たとえば、選手の起用方法です。プロの場合、年間140試合余りが組まれていますが、調子が落ちている選手でも我慢して使い続ければいい結果を生むことも少なくありません。しかし、国際大会のような短期決戦ではそういうわけにはいきません。監督やコーチは一つの試合の中でも選手の出来不出来を瞬時に判断し、交代や起用を実行する眼力が求められるのです。
審判のストライクボールの判定にしても、人間ですからクセがあります。同じ審判でも日によってストライクゾーンの基準が変わることだってあります

監督はそれを即座に見抜き、臨機応変に選手に対応するように指示を飛ばすことができるか。

確かに予めとったデータも必要ですが、それに全面的に頼りきるのは実に危険だ。データはあくまでも参考までにとどめておき、自分の目で実際に見極めた判断が一番重要なんです。だから私が監督の時は、当初考えていた作戦と違う戦い方をしたことはしょっちゅうでした。
つまり、国際大会のような短期決戦で最後の決め手となるのは、即断即決の出たとこ勝負の勘が左右するんです。

たとえば、名将と謳われた三原脩監督。西鉄ライオンズの監督として日本シリーズで巨人と対戦し、3連敗の後に4連勝して日本一に輝きました。また前年最下位の大洋ホエールズを優勝に導いたこともあります。三原さんは日本シリーズの第一戦にすべてのピッチャーをマウンドに上げ、投げさせたことがありました。この試合を捨てる覚悟で、シリーズで使えるピッチャーは誰かの見極めをしたんです。五輪やWBCのように予選リーグと決勝リーグに分けられている大会ではまさにこの三原流の戦略は大いにヒントになるのではないでしょうか」       

---代表選手の選抜の基準はどこにおいたらいいですか?

「北京五輪に選ばれたメンバーは、日本を代表する選手だったことには違いありません。ただ、好不調を把握しなければどんなにいい選手でも力を発揮してくれません。北京ではケガを押して出場した選手もいましたが、『大丈夫か?』と聞かれて『ダメです』という選手などいません。ましてやオリンピックは誰もが立ちたい最高の舞台なわけで、4年に一度のチャンス。しかも北京大会が最後となるわけで多少の無理をしてでも出てきたはずです。それが今回仇になったわけで、選手の体調管理をしっかり把握することは今後とも大いに心がける必要があるでしょう。
たとえば、巨人軍時代の長嶋監督ですが、試合前のバッティング練習を最後までじっくりとチェックし、好不調の選手の最新情報を自分の目で確認し、試合で活かしていました。重要なことです。

今回の北京メンバーに敢えて私なりに意見を言わせていただければ、体調が良好を前提に野手では小笠原と松中、ピッチャーでは世界では珍しいアンダースローのロッテの渡辺俊介を選んではと思いました。その理由は国際大会の経験と社会人で会社の名前を背負って活躍した実績です。

私も監督として経験がありますが、『日の丸』を背負わされるプレッシャーというのは、経験した者にしかわからないとてつもない重さを持っているんです。また、社会人野球でも会社の看板を背負って都市対抗野球に出場したか否か、そして勝ったかどうかもこれまた大変なプレッシャーなんです。たとえば、都市対抗の予選が近づいてくると、あの猛者たちの中にプレッシャーで震え出す者もいます。大会の一週間前になると、『負けたらどうしよう』って緊張感から昼に摂ったものを夜にはすべて吐いていた者もいました。大会出場を逃したら、以後、社員食堂の隅っこで食べるしかありません。『お前たちは俺たちの働いた金で野球をやっているんだから』という暗黙の呪縛をから逃れられないんです。

全日本の中軸で活躍し、プリンスホテルから西武に入団し新人王に輝いた石毛宏典が、『プロでは今日3打数3三振でも明日打てばいい。でも、社会人はそうはいかない。負けたら明日がないわけで、その点、プロは凄く楽ですよ』って言っていたのがすべてを物語っています。

北京で優勝した韓国は優勝すれば兵役が免除され、キューバは家と車が与えられるというわけですが、それはそれで励みであり、またプレッシャーになるかもしれませんが、それだけに彼らの必死さは半端じゃありません。それこそ死に物狂いで向かってくるわけですから、そんな相手に対してはよほどの覚悟をもって立ち向かわなければ勝てるわけがなかったということです。

それが『日の丸』の重圧、国を背負うということで、経験の有無がプレーに大きく左右するということでもあるんです。だから、小笠原や松中のように社会人、五輪も経験し、しかも屈辱を嘗めている力が必要だと思います。特に、社会人経験者はプレッシャーに負けない強さがあるので貴重な戦力になるんです。他にも甲子園という大観衆の前でのプレー経験、早慶戦のような伝統の一戦を母校の誇りにかけて戦った者もメンバー選抜の際の重要なポイントです。

もちろん敢えていうまでもないことですが、レッドソックスの松坂大輔。彼は甲子園優勝、西武で日本一、オリンピック経験、メジャーで活躍中、しかもワールドシリーズも制したわけで、非の打ちどころのない完璧な代表メンバーです。他に中日の中村紀もいいんじゃないですか。実績や経験に加えてドン底から這い上がってきた男であり、怖いものなしでしょう。そこへイチロー、岩村、福留らメジャーの連中も入ってきたら言うことはありませんね。

要するに、選手を選考する際にはこれまでのシーズンの成績だけに注目するのではなく、選手のルーツやバックボーンも十分に精査する必要があるということです」

北京五輪写真

---WBCに臨むにあたって、監督以下、コーチはどんな布陣がいいと思いますか?

「まずは選手同様に国際大会の経験のある人が望ましいですね。

たとえば、私は監督に古田なんか面白いと思います。彼は社会人も経験し、ソウル五輪で世界を相手に戦ってきました。キャッチャーとしてキューバをはじめ世界の強豪選手を目の前で見ています。プロでも十分な実績も残していますし、キャッチャーというすべてを見渡せるポジションからバランスよくゲームを分析する能力にも優れています。年齢は若いかもしれませんが、国際経験は大ベテランです。

ピッチングコーチは野茂でどうでしょう。彼も国際経験も実績も申し分ない。しかも、ずっとメジャーで投げ、超一流のバッターと対戦してきたわけですからね。ヘッドコーチは広島OBの野村謙次郎です。彼も五輪の経験があり、解説者として話を聞いていると、野球をよく知っています。たとえば、ピッチャーがリードをとる一塁ランナーに牽制球を放った時、球にスピードがなく思い切って投げないと見るや『ランナーはもっとリードをとれますね』と解説していました。瞬時にして状況を分析する能力に長けていると関心させられました。

果して監督が誰になるかわかりませんが、いずれにしても勝負勘に優れた人を臨みます。結局、監督というのは、みんなの前でバッターとピッチャーを決闘させるわけです。その瞬間は敵味方関係なく戦況を見守り、冷静に判断を迫られるわけです。味方の力が劣ると判断したらどういう作戦を出してその場を凌ぐか。勝負に情を絡めている時間はありません。要は、眼力です。
WBCでは、代表に是非とも日本の野球の真髄を世界に見せつけて欲しいですね」

(終)

WRITER

黒井克行
1958年北海道旭川市生まれ。早稲田大学を卒業後、出版社勤務を経て、ノンフィクション作家として独立。著書に『テンカウント』(幻冬舎文庫)、『高橋尚子夢はきっとかなう』(学習研究社)、『高橋尚子勝利への疾走』(講談社α文庫)、『工藤公康プロフェッショナルの矜持』(新潮社)、『男の引き際』(新潮新書)などがある。日本大学法学部講師も務める。

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