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ゴジラ松井、ニューヨーク物語
第7回 09年松井のバット、そしてHRへのこだわり

 

松井秀喜ニューバットを片手に気持ちを新たに(07年)シーズンを迎えた松井。

09年型ニューバット

2008年12月26日、松井はミズノの東京本社を訪ね、「バット作りの名人」久保田五十一に会い、2009年型ニューバットを発注した。

松井によると、重さ(約900グラム)と長さ(約87センチ)は変えなかったが、グリップエンドだけは注文を付けたという。

「1ミリ程度ですが、グリップを削ってもらいました(直径57ミリ)。2009年からは、従来のように、右手の小指をグリップエンドのふくらみにかけようと思っています」

松井にとっては、たかが1ミリだが、されど1ミリでもある。バットを長く持つ感覚で、ヘッドを走らせ、遠心力を効かせ、ボールを遠くへ飛ばそうという考えなのであった。

昨年の春先は、瞬間風速とはいえ、ア・リーグの首位打者に躍り出た。今年も打率重視を貫くなら、バットを変える必要がない。グリップエンドを削ったということは、ホームラン量産というねらいがあるのではないかと私は思った。

カナダ大雪原の"恋人"

バットの素材は、いままでと同じメープル(カエデ)。バリー・ボンズが使用し、爆発的人気を呼んだ素材だ。

久保田名人が松井に最高の素材を提供するため、カナダの大雪原を走り回り、バットにふさわしいメープルの木を発見したのは、2003年3月。場所はオンタリオ湖岸のトロントから北東へ車で4、5時間行った山中だった。

「大雪原の中に、すくっと1本の若木が立っていました。見た瞬間、松井選手のバットを作るにはこの木しかないと思いましたね」

久保田名人の素材哲学は独特のものだ。

「いささか不謹慎な表現ですが、いい木というのは女性と同じ。ぱっと見た瞬間にわかるんです。たくさん女性がいても、美人は目立つでしょ(笑)。バットにする木も、素材がアオダモだろうが、メープルだろうが、同じです。いちばん大切なのは、容姿(笑)。肌がなめらかで、色白がいいんです(笑)」

バット工場通い

松井が初めて岐阜県養老町にあるミズノのバット製造工場に足を運び、久保田名人に会ったのは、1992年秋のドラフト会議で巨人から1位指名された直後であった。

久保田名人が思い出す。

「学生服を着た高校生が工場に来たのは、初めてのことでした」

松井は久保田名人にアドバイスを求め、長さ34インチ(約86・3センチ)のバットをプロで使うことに決めた。

以来、バットの変遷は、そっくりそのまま松井の打撃人としての歴史でもある。

2年後の11月、松井は再び久保田を工場に訪ねた。

「落合(博満)さんのバットを見せてもらえませんか」

その年、巨人に移籍した落合の打撃を見て、関心を抱いたのである。落合のバットも、久保田が制作したものだった。

「非常に細いですね。どうしてこんな形状なんですか」

「ヘッドのほうに重心を持っていくと、細いほうがしなりが出やすいのです」

松井が満を持して落合モデルに変えたのは、それから4年後の1998年。

重心をバットの先端に持っていき、なおかつバットがしなりやすいようグリップエンドも削った。この年、松井は34本塁打を放ち、初の本塁打王に輝いた。

仕上げは2000年のシーズンであった。日米野球で、サミー・ソーサ(当時・カブス)が使用していたバットにヒントを得て、グリップエンドを右手の小指で包み込むスタイルに変え、本塁打王と打点王の2冠王になった。

ところが、2003年に海を渡り、メジャーリーグに挑戦し、一からのやり直しを強いられた。まず、素材をアオダモからメープルに変えた。

「アオダモだと、バットがしなりすぎて、遠くへ飛ばない。メジャーリーグの重いボールに合わないんです」

バットの形状も、「V字型」から「ビール瓶型」へ、ヘッドを太くした。メジャーの投手は、カットボールやツーシームなど、手元で変化する球が多いからだった。

そして、毎年、試行錯誤をくり返し、今日のバットに至ったのである。

09年目標

昨年の大晦日、石川県に帰省した松井は、2009年の目標を訊かれ、こう答えた。

「フルに出られる体になること。フルに出られる結果を残すこと」

松井の口から「結果」という言葉が出るのは極めてめずらしい。それくらい、今年にかけているのだった。

メジャー移籍後、松井の最多本塁打は、2004年の31本。今年の松井は、ニューバットで31本越えをねらっているのである。
                
(次号へ続く)

WRITER

松下茂典
ノンフィクションライター。石川県金沢市出身。明治大学卒。主な著書に『松井秀喜・55の言葉』(東京書籍)、『神様が創った試合』(ベースボール・マガジン社)などがある。

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