勝手に日本サッカー強化委員会
第6回 "常勝軍団"鹿島に見る伝統を継承する力
アントラーズの強さの原点は本田泰人にあり。彼の執拗なまでの相手を嫌がるプレーが勝利を呼び込んだ。
日本のレアル・マドリード
本来なら昨年のうちに書いておくべきだったが、昨シーズンの終盤戦は日本代表のカタール戦やクラブ・ワールドカップといった注目度の高いゲームが立て込み、ついつい後回しにしてしまった。
2008年のJ1王者、鹿島アントラーズのことである。
Jリーグ史上最多の12冠を達成した、このクラブの強さについて、年初めの今回は考えていきたい。
Jリーグにおける鹿島は、少し大げさに喩えるとスペインにおけるレアル・マドリーやバルセロナ、イタリアにおけるユベントスやACミランのような存在だと僕は考えている。
クラブの予算やファンの数、メディアのボリュームは、もちろん違う。だが、つねに優勝を義務づけられ、つねに優勝争いに顔を突っ込んでいるところは、ヨーロッパの強豪と変わらない。
Jリーグが立ち上げられてから15年、実は毎年のように優勝争いをしているのは鹿島だけだ。
創設期の巨人、川崎ヴェルディは東京に移転したころから弱体化し、一時は鹿島と覇権を争ったジュビロ磐田も昨シーズンは降格を免れるのがやっと。このところ急速に力をつけてきた浦和レッズも、安定した力を発揮するには至っていない。
鹿島の哲学
ヨーロッパに比べて、日本には「一代限り」の王者が少なくない。
簡単にいえば、こういうことだ。
一、ある時期に優秀なプレイヤーが集まり、頂点に立つ。
ニ、その優秀な世代が年老いて、弱体化する。
川崎時代のヴェルディと磐田がそうだった。
ヴェルディは、三浦カズ、ラモス、柱谷哲二、北澤豪、武田修宏といった草創期の黄金メンバーが衰えて、一気に降下。磐田も、中山雅史、名波浩、藤田俊哉、服部年宏、田中誠といった代表クラスが高齢化すると、そのまま順位を落とした。
そんな中で、鹿島だけが主力の顔ぶれが変わっても強豪としての地位を保ち続けているのである。
海外では当たり前でも、日本では特筆すべき事実といっていい。
こうした鹿島の強さには様々な要因があるが、ひと言でいえば「伝統の強さ」といっていい。
前述した磐田やヴェルディは、黄金時代が終わったときに、弱くなったことを当事者である選手やフロント、さらにはファンが受け入れてしまった。
いい夢を見せてもらった、と。
鹿島は違う。
恥ずかしげもなく「楽しいサッカーをしたい」と口にする多くのクラブとは違い、彼らは「勝たなければ楽しくない」と考えている。
負けず嫌いの権化、ジーコが刻みつけた「哲学」(社訓といってもいいだろう)が代々受け継がれているのだ。
「鹿島アントラーズは勝たなければならない」
鹿島に携わる人々は何の疑問を抱かずに、そう思っているはずだ。
これは理屈ではない。
レアル・マドリーは勝たなければならず、ユベントスもまた勝たなければならない。バルセロナも、ミランも、バイエルンも、マンチェスター・ユナイテッドも。
長く勝ち続けているクラブは、自分たちが勝つのは当たり前だと考えている。
反対に、
「なんで勝ち続けなきゃならないんだよ」
と思っているクラブは勝ち続けられないのである。
ヴェルディや磐田と違って、鹿島が、「俺たちは勝たなきゃいかんのだ。負けるのは恥ずべきことだ」という考えを伝承してこられたのは、ジーコがいなくなっても、ジーコの教えを受け継いできた人々がいたからだ。
本田泰人の存在
10年くらい前、名波がインタビューの最中に悪戯っぽく笑いながら逆質問をしてきた。
「鹿島の強さの秘密、何だと思います?」
磐田の王様は嬉しそうにいうのだった。
「本田さんがいるからですよ。いまは出番が少ないけれど、ベンチで若手に睨みをきかせているんですよ」
中盤の守備を担い続けてきた、本田泰人のことだ。
身体は小さいが気が強く、いったん食いついたら地獄の底まで追いかけていくような殺し屋。あの大久保嘉人を、試合中に引っぱたいたこともある。
バラエティ番組での恐妻家ぶりが嘘のような、鼻っ柱の強さであった。
本田が活躍していたころの鹿島と名古屋グランパスの対決は、この本田とストイコビッチの戦いのようなところがあった。
本田の嫌がらせにストイコビッチが激怒したら、鹿島の勝ち。反対にストイコビッチが本田を手玉に取れば、名古屋の勝ち。
対戦成績で鹿島が大きくリードしていたのは、本田がそれだけ仕事をしていたということだ。
本田について、印象深い出来事がある。
04年の浦和戦、ホームで敗れた鹿島イレブンにファンから缶が投げつけられ、これに怒った本田が観客席に投げ返した。するとサポーター数人がピッチに乱入。本田に暴行を働いたのだ(本田は勇敢に戦ったが、多勢に無勢であった)。
缶を観客席に投げ返したことは、決して褒められるべきことではない。
だが、何があっても傍観者を決め込む選手よりも、肝心なところで頼りになるのは、こういう男だ。
ファンが投げ込んだ缶には、
「お前ら、恥ずかしいゲームしてんじゃねえ」
という意味があり、本田は本田で、
「うるせえな、俺だって悔しいんだよ」
という気持ちで応えたのだ。
こういうことができるのは、いまのJリーグでは浦和の田中マルクス闘莉王くらいだろう。
こういう男がいるチームは強い。若手が、その背中を見てたくましく育つからだ。
小笠原満男や本山雅志、中田浩二や岩政大樹など、鹿島には勝利に徹することのできる、面構えのいい男たちが揃っている。
鹿島の戦い
ブラジル人監督による指導、ブラジル人獲得の上手さ、戦術の一貫性など、鹿島の強さの理由はいくつもあるが、忘れていけないのは本田に象徴される狡賢さ、汚さだ。
最後に、そのことに触れて原稿を終えたい。
かつて、名古屋の田中孝司監督が、
「鹿島みたいなチームに勝たせてはいけないんですよ」
とインタビューの席で言い出した。
なぜですか、と尋ねると、
「ああいう汚いところに勝たせてはいけないんです。たとえば主審がイエローを出しそうになると、大勢の選手が割って入ってだれの反則かわからなくさせようとする」
辛らつな口調で鹿島を糾弾した。
たしかに日本的文脈に当てはめれば、鹿島は美しくないだろう。
2000年の第2ステージ最終戦では、勝った方が優勝という大一番を柏レイソルと戦ったが、0対0で凌ぎきり、タイトルを手中にした。
この試合の終盤、鹿島はビスマルクがコーナー付近で何度もボールを囲み、時間稼ぎをした。そのことが批判の的になった。
タッチを割ったボールをベンチのトニーニョ・セレーゾ監督が直々に拾い上げ、物凄くゆっくりした動作で転がして返したシーンも忘れられない。
「お前は、そこまでして時間を稼ぎたいのか!」
頭が下がる思いであった。
こうした鹿島の「社訓」を、僕なりに考えてみた。
プロは勝たなければならない。
勝つためには、見栄えのいいプレーばかりしていてはだめだ。
敵に嫌われることを勲章だと思え。
そして、一つひとつのプレーを疎かにするな。
些細なところにも、勝利につながる何かが隠されているのだ。
これはもう、スポーツというより、戦いといったほうがよさそうだ。
見方を変えると、他の多くのクラブがスポーツ的すぎるのだろう。
小さなことの蓄積が、「常勝軍団」鹿島を築き上げた。
彼らの戦いぶりを見ていて思うのは、強くなることよりも、強くあり続けることの難しさである。
(終)
WRITER
- 熊崎敬
- 1971年生まれ、岐阜県出身。8年間、サッカー専門誌に勤め、その後、フリーライターに。唯一の著書『熊さんのゴール裏で日向ぼっこ』が絶賛在庫中だ。父の影響を受け、幼少期から日本ハムファイターズを応援している。
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