ゴジラ松井、ニューヨーク物語
第6回 お正月

 

松井家のお正月の過ごし方

さる12月10日、松井は成田着の日航機で帰国した。11月下旬にニューヨークで会ったときは足を引きずっていたが、帰国した際の足取りは不自然さがなかった。
9月22日に手術した左膝は、劇的に快復したのだろうか。

「このまま順調にいけば、オープン戦には間に合うと思います」

ヤンキースのオープン戦初戦は、2月25日のブルージェイズ戦。2008年は手術した右膝の状態が芳しくなく、オープン戦出場が3月12日と出遅れた。そのため、今回はリハビリに万全を期している。

「トレーナーの指示どおり、とりあえず、10日間は何もしないで休みます。まだ室内のジョギング程度ですから、次の段階は外でしっかり走れるようにしたい」
年内は東京でリハビリをつづけ、お正月の数日間だけ石川県能美郡根上町の実家に帰る予定だ。

このオフ、気を付けたいことは、食べ過ぎだという。
「例年、オフには太るんです。日本は食べ物がおいしいですからね。体重が107、8キロになる。手術した膝を守るためにも、極力、体重増を少なくしたい」

ああ見えて、松井は美食家である。帰国すると、すぐさまふぐ料理店に向かう。ふぐの肝焼きが大好物なのだ。

石川に里帰りすると、ずわい蟹をたらふく食べる。とりわけ好きなのが、雌の「香箱蟹」(地方によっては「勢子蟹」ともいう)。赤い内子に目がないのである。

巨人時代から、年末年始は決まって実家で過ごす。そのため、何度も紅白歌合戦のゲスト審査員の出演を依頼されたが、すべて断った。
「新年は家族で迎えるもの」
というのが、松井スタイルだ。

背中で語る男 松本清司両親と。「家族は港。癒しの場」(母・さえ子)。松井家に理想的家庭を見た。

松井家の人たちは、新年を教会(瑠璃教会)で迎えるのが習わしだ。父親昌雄、母親さえ子、長男利喜、次男秀喜。2年前からは利喜夫人、今年からは秀喜夫人が加わることになる。

時計の針が12月31日午後11時45分を指すと、それぞれが教会に集う。秀喜が生まれる以前から、ずっとつづいている松井家のしきたりだ。
昌雄によると、しきたりいっても、型苦しいものではないという。ごく自然に1年を振り返り、新たな気持ちで1年をスタートさせるものらしい。

昌雄は著書『秀さんへ。』(文春文庫)に書いている。
〈教会に入り、お祈りがすむと、わたしが利喜、秀喜、さえ子の順番に話をします。キリスト教の教会とは雰囲気が違います。畳敷きで、広さはちょうど100畳。私が上座で、少し離れたところに家内が座り、利喜と秀喜が並んで正座します。畳の上に置かれた石油ストーブは赤々と燃えさかっていますが、広い座敷に家族4人しかいないため、身の引き締まるような寒さです〉

昌雄の話が終わると、利喜、秀喜、さえ子の順番で話をする。ゆく年を回顧し、来る年の抱負を述べるのである。終わると、それぞれが自分たちの部屋に帰っていく。

今年、秀喜はどんな話をするのだろうか。3年連続して手術を余儀なくされたことで、2009年はケガなくシーズンを全うしたいという誓いを立てるのかもしれない。

縁あって、私は秀喜の高校時代から、松井家を取材で訪ねるようになった。そのたびに感じたのは、松井家には厳然たる家父長制が存在するということだった。

子どもたちがどんなにお腹をすかせていても、母親がご飯をよそうのは父親からである。それでいて、父親は偉ぶったところが少しもなく、子どもたちと会話を欠かさない。秀喜が高校に進むまで、父子3人で近くの銭湯に行き、お互いの背中を流し合ったほどだ。

母親のさえ子がいう

「わが家は父と子の対話がすごくあるんです。秀喜が子供のころは、お父さんと毎日いろんな話をしていました。野球のことに限りません。私も、それが大切だと思ってきました。母親は、食事を作ったり、身の回りの世話をしたり、十分愛情を注いでいます。でも、父親は自分のおなかを痛めたわけではありませんから、子供とのつながりは対話がいちばん大切なんです。とくに男の子はそうだと思います」

導く父と見守る母。松井家は、ある種の理想的家族であった。

母親のさえ子は、
「家庭は港。癒しの場」
という考えを持っている。

だから、秀喜が帰ってくるときは必ず空港に出迎え、出ていくときには決まって空港まで見送る。巨人時代から今日に至るまで、その姿勢は見事なくらい変わらない。

(終)

WRITER

松下茂典
ノンフィクションライター。石川県金沢市出身。明治大学卒。主な著書に『松井秀喜・55の言葉』(東京書籍)、『神様が創った試合』(ベースボール・マガジン社)などがある。

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