六さんのスポーツ一刀両断!
第6回 「侍ジャパン」と「七人の侍」
侍ジャパン
来年3月にある第2回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に出場する日本代表チームは「侍ジャパン」とネーミングされている。スポーツ紙はこぞって見出しに取っているのは周知のことだ。
2月の最終選考では「選ばれた28人の侍」などという見出し記事が躍るのは目に見えている。多分に仰々しさを感じるが、先のオリンピック野球で「長嶋ジャパン」、「星野ジャパン」などと呼称していたのに比べると、まだしも受け入れやすい。
オリンピックの日本代表・チームを語るとき、なぜ、監督を主役に仕立てるようなネーミングが大手を振って喧伝されなければならないのかと不快感をもようしたものだ。主役は、あくまで選手なのだから、素直に「日本代表」でいいじゃないかと苦々しく思っていた。
七人の侍
ここで早くも余談にはいって申し訳ないが、映画監督・黒沢明の作品に「七人の侍」がある。この映画は1954年に製作されたもので、私はリバイバル劇場公開を含め、DVDなどで何回見たことか数え切れない。恐らく20回は下らないと思う。今年は氏の没後10年ということで、NHK衛星放送が全30作品を放映している。「七人の侍」は、すでにオンエアーされて、見逃すことはなかった。
物語はざっとこのようなものだ。16世紀の戦国時代、貧しい百姓部落は夜盗と化した野武士の集団に蹂躙されていた。自ら戦うことはままならない。窮地に陥った農民たちは、「腹の減った侍、雇うだ...」という長老の言葉で行動を起こす。
自分たちは稗(ひえ)でしのぎ、コメのメシを腹いっぱい食べさせる"報酬"だけで侍を雇おうというのだ。窮状に気づいた侍たちは「このメシ、おろそかには食わんぞ」―そう語って野武士の集団と戦う決意を固める。
私がこの映画で、たまらなく好きなシーンがある。インターミッションが入る前編の終わり、参謀格の侍・五郎兵衛(稲葉義男)が穏やかな口調で諭す。「言いにくいことだがのお、川向こうの3軒は守り切れんで...不憫だが、引き払ってもらうしかない」。以下は、すっかり覚えてしまったセリフを入れてシナリオ風に書きたい。
3軒のうちの一人の百姓「へッ、ばかばかしくてやってられねぇ。みんな、自分のウチ捨てて、こんなもの(竹槍)かつぐこたねぇ。自分のウチは自分で守るべ、みんなこっちさ来い」
3軒の仲間は竹槍を捨てて川向こうの家へ帰ろうとする。そのとき、志村喬演じる侍大将・島田勘兵衛は抜刀して「待てぇ!」と疾風のように追いかける。テーマ曲が高らかに鳴りひびく。
勘兵衛「この槍をとれ!」、「列へ戻れ!」
慌てふためき、整列した百姓たちを前に、一段高い場所に立った勘兵衛は抜刀したまま、つぎのように言う。
「離れ家は三つ、部落の家は二十だ!。三軒のために二十軒を危うくはできん!」
「また、この部落を踏みにじられて、離れ家の生きる道はない!」
「いいか、戦(いくさ)とはそういうものだ!」
「人を守ってこそ、自分も守れる。己のことばかり考えるヤツは、己おも滅ぼすヤツだ!今後、そういうヤツは...」
勘兵衛は、あとの言葉を呑み込むと、抜き身を鞘に収めて平然と、その場を立ち去っていく。再びテーマ曲が砂塵の中に流れる。
思うに勘兵衛は、「団結と思いやり、人間一人ひとりの能力発揮の大切さ」を戦(いくさ)の心構えとして説いたのだ。いわば、野武士と戦うためのミッションと戦略をここしかないという局面で言い含めたのである。私はこのシーンがやってくるといつも鳥肌が立つのだ。クライマックスの息もつかせない雨中の戦闘シーンと合わせ、日本映画史上におけるスペクタクル映画の最高傑作だと思っている。
WRITER
- 六車護
- 1945年香川県生まれ。早稲田大学卒業。高校・大学で硬式野球部員。毎日新聞入社。運動部でプロ野球、ボクシング、経済部で通産省、証券、財界などを担当。運動部長、論説委員を経て退職。現在、フリージャーナリスト、早稲田大学講師。著書に『名スカウトはなぜ死んだか』(講談社刊)、『監督論』(広岡達朗氏と共著集英社インターナショナル刊)などがある。
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[08/12/10]
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[08/11.26]
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